パクチーの王様



 そのあと、実家の母から電話がかかってきて、お店が終わってからでもいいから、たまには晩ご飯でも食べに来なさいよ、と言われた。

 夜、店を片付けてから実家に帰ると、夕食と酒が用意してあって、ご機嫌な父親が訊いてきた。

「芽以、なにか変わったことはないか?」

 変わったこと?

 圭太が包丁つかんで、逸人さんに、一緒に死んでくれ、と言ったこととか。

 婚姻届と指輪を逸人さんに生ゴミにポイ、されそうなこととか?
と思いながら、

「ないよ」
と言うと、水澄《みすみ》が小声で言ってきた。

「お義父さんの、変わったことないかってのは、子どもは出来てないかってことなのよ」
と。

 ええっ? と振り向くと、
「今日、お友だちがお孫さん連れて歩いてるの見たんですって。
 可愛い女の子だったそうよ」

 私もさっき訊かれたわ、と水澄は苦笑いしている。
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