パクチーの王様
横に居た聖《ひじり》が、
「この間、芽以に手を出させまいと、逸人を酔いつぶれさせようとしたくせになー」
と言っていた。
いや、子どもどころか、結婚前に離縁されそうなんですけど、と思いながらも、美味しく酒と食事をいただき、家を出た。
寒い夜道を歩きながら、またあの橋を通りかかり、クロッキー通らないかなーと思う。
まだ自分からは逸人になにも言っていなかったことに気がついたのだ。
それが逸人にとっていいことかはわからないが。
クロッキーを見かけたら、ちゃんと告白しよう、と思いながら帰ったのだが。
時間が遅すぎて、一台も出会わなかったうえに、手袋も忘れなかったので、逸人に手を握ってもらうこともなかった。
なんかいろいろ間抜けだ、と思いながら、寝る前、まだ芽の出ない種たちに、
「今日もいろいろあったよ。
おやすみ」
と話しかけたとき、誰かがドアをノックした。