パクチーの王様
「芽以」
と呼びかけながら、逸人がもう一度、部屋の戸をノックしてきた。
はい、と返事をすると、逸人はドアを開けようとして、
「……何故、南京錠をかけている」
と文句を言ってくる。
いや、貴方がつけてくれたんですよね、それ、と思いながら、芽以は鍵を開けた。
ドアを開けると、逸人は、ホッとした顔をして入ってきたが、その手にあの婚姻届があったので、今度は、芽以がホッとしなくなった。
逸人が芽以の布団の横に正座したので、なんとなく芽以も正座する。
逸人は二人の間に、婚姻届を置くと、厳《おごそ》かな口調で言い出した。
「やはり、これは破り捨てようと思う」
それは逸人のケジメのようだったが、芽以は少し寂しく思っていた。
なんだかんだで、すべてはその婚姻届から始まったからだ。
厨房で書いたので、ちょっとパクチー臭いそれに、すべての思い出がぎゅっと詰まっている感じがする。