パクチーの王様
逸人は、点《た》てたお抹茶を出すかのように、すっ、と二人の間に、破りそこねた婚姻届を置くと、懐から、折りたたんだ真新しい婚姻届を出してきた。
「これを横に置いた状態で、もう一枚書こう」
と言い出したので、ちょっと笑ってしまった。
「あの、破るのはやめまにしませんか?」
と向かい合って、正座したまま芽以は言った。
「私は、それ、飾っておきたいんです。
結婚するまで、いろいろあったな、と思いながら、時折、眺めたいから。
この先、どんなことがあっても、それを見たら、乗り越えられる気がするんです」
……そうか、と逸人は頷いた。
少し嬉しそうに見えたのだが、まあ、この人の表情、ほぼ読めないからな、と芽以は思っていた。
正座して差し向かい、床の上の婚姻届を二人で書いていると、なんだか可笑しくなってきた。
「やっぱり、血判状みたいですね」
と芽以は笑う。