パクチーの王様
「まあ、ある意味、血判状みたいなものだ。
 永遠に違《たが》えることない誓いの紙だ」

 覚悟を秘めたようなその口調に、今にも腹でも斬りそうだ、と怯えながら、芽以はハンコを押した。

 今度こそ、強制されることもなく――。

 ペンを置いた逸人が、
「気に入らなかったら、捨ててくれ」
と言って、あの小箱を渡してきた。

 薄く模様の入った白い包みに入っている。

 包装を解くと、中から淡い水色の箱に入った指輪が出てきた。

 細いリボン型の指輪で、小さなダイヤがちりばめられている。

「あ、か、可愛いです」
と芽以が言うと、逸人はホッとしたようだった。

「俺たちの縁が解けないように、と思って買った」
と言ったとき、普段は変わらない逸人の顔が、少し赤くなったように見えた。

 逸人は、あの白い指で、指輪をつかむと、芽以の手を取り、はめてくれる。
< 529 / 555 >

この作品をシェア

pagetop