パクチーの王様
「駄目とか言っても、もう無理だ……」

「いやでも、あのでもっ」
と往生際悪く、芽以は周囲を見回す。

「カッ、カーテン開いてますっ」
「あとで閉める」

 あとでっ?

「パー、クー、チーが……っ」

 見てますっ、と言おうとしたが、もう食べてしまっていた。

「そうだ、タネたちがっ」

「タネは死んだ」

 ……そんな、神は死んだ、みたいに言われても。

 いつも私が、鉢を見て、もう駄目なんですかね~、としょんぼり言うたび、もうちょっと待ってみろ、芽が出るかもしれんと慰めてくれていたのは貴方ですよっ!?

「……貴方、意外と普通の男の人ですよね」
と芽以が恨みがましく見ながら言うと、

「普通でないと言ったことはない」
と逸人は真面目に言い返してくる。
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