パクチーの王様
そうですね。
自分で言ったわけではなかったですよね。
でも、誰もが貴方のことを普通でないと思ってますよ、と思っている芽以の頬にそっと触れ、逸人は言ってきた。
「大丈夫だ、芽以。
怖くはない。
これは、一生、二人で居るための儀式だ――」
言う相手によっては、怖いような気もするセリフだが。
逸人なので、怖いながらも、ちょっと嬉しかった。
もう一度口づけたあと、少し離れて逸人は言った。
「今夜が人生で一番幸せな夜だと、今思ったが。
きっと違うな」
ようやく息をしながら、芽以が、……え? と問い返すと、逸人は自分をまっすぐ見つめ、言ってくる。
あの見つめられると、すみません、と謝りたくなるような澄んだ瞳で。
「今日より明日、明日より明後日の方がきっと幸せだ」
ずっとお前が居るから、と言いながら、逸人は芽以の手に指先をからめてきた。