パクチーの王様

 そうですね。
 自分で言ったわけではなかったですよね。

 でも、誰もが貴方のことを普通でないと思ってますよ、と思っている芽以の頬にそっと触れ、逸人は言ってきた。

「大丈夫だ、芽以。
 怖くはない。

 これは、一生、二人で居るための儀式だ――」

 言う相手によっては、怖いような気もするセリフだが。

 逸人なので、怖いながらも、ちょっと嬉しかった。

 もう一度口づけたあと、少し離れて逸人は言った。

「今夜が人生で一番幸せな夜だと、今思ったが。
 きっと違うな」

 ようやく息をしながら、芽以が、……え? と問い返すと、逸人は自分をまっすぐ見つめ、言ってくる。

 あの見つめられると、すみません、と謝りたくなるような澄んだ瞳で。

「今日より明日、明日より明後日の方がきっと幸せだ」

 ずっとお前が居るから、と言いながら、逸人は芽以の手に指先をからめてきた。






< 533 / 555 >

この作品をシェア

pagetop