パクチーの王様



 少しうとうとしたあとで、芽以が横を見ると、逸人がこちらを見つめていたので、気恥ずかしくなり、視線をそらした。

 やがて、芽以は天井を見たまま、ぽつりぽつりと話し出す。

「……圭太と居ると楽だったんです」

 今、圭太の名前を出すなよ、と思われそうだな、とは思ったが、今、此処で言っておきたかったのだ。

「逸人さんと居るのは楽ではないです。
 でも、一緒に居たいと思ってしまうんです」

「……楽ではないとは?」
と相変わらず、生真面目に逸人は訊いてくる。

 芽以は逸人を振り向き、
「未だに一緒に居ると緊張するって意味です」
と赤くなって言った。

「ずっと一緒に居た圭太が居なくなって、寂しかった。
 だけどそれは、男の人として好きだったからじゃなくて。

 きっと、心許せる友だちだったから――」

 そう呟く芽以を見て、逸人は言う。
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