パクチーの王様
「はっ、逸人さんっ、死んでませんでしたっ」
朝、そんな芽以の叫びに、珍しく芽以より遅くまで寝ていた逸人は目を覚まし、
「……お前がか」
と阿呆なことを言ってくる。
いや、新妻を殺さないでください……と思いながら、芽以は窓辺で手招きをした。
「芽が出てますっ」
起き上がって逸人が来る。
机の上の鉢。
朝日を浴びた土から、幾つかの緑の芽が、ちょこんと顔を出していた。
「よかったな」
と言う逸人を、はいっ、と振り向く。
真後ろに逸人が居るので、逸人の匂いがすぐ近くでした。
いい匂いだ。
幸せになる。
でも、パクチー臭い仕事中の逸人さんも好きだ。
だって、それも逸人さんの匂いだから。
……ま、料理運ぶときは、ちょっと息止めてるけど――。