パクチーの王様
「いえ。
 私は日向子さんには感謝しています。

 だって、日向子さんが圭太と結婚すると言ってくれなかったら、逸人さんが私と結婚してくれる未来もなかったと思うから」

 そう芽以が言うと、近くで誰かが笑った。

「聞いてないフリして聞いてるんですね」
と逸人がそちらを見て言う。

 身なりの良い、恰幅のいいおじさんがひとりで食事をしていた。

「逸人さんでも妬いたりするんですね」
と男は言う。

 ひとりお客様が残ってるのに、珍しく、私用でずっとしゃべってるなと思っていたのだが、どうやら、知り合いだったようだ。

 安藤というその男は、相馬の会社の重役だと芽以に名乗った。

「私が代表してお話に来ました。
 会社に戻られるつもりはないようですね」

 社長から聞きました、と安藤は言う。

 この間、相馬の家でした逸人の演説のことらしい。
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