パクチーの王様



 いやー。
 好きだったかと訊かれたら、よくわからないんだが……。

 なにか衝撃的なことがあった気がするのに、いつも通りに、一人暮らしの部屋の洗面所で化粧を落としながら、芽以は思う。

 人間って、こういうときにもちゃんと、やるべきことはやるんだな、と思いながら。

 いや、こういうときだから、ぼんやりしたまま、常日頃やっていることを繰り返しているだけなのかもしれないが。

 それにしても、ずっと一緒だったから、突然居なくなるとか言われたら、寂しいかな……。

 そんなことを思いながら、拭き取り用のコットンを手に、腕に問題があるので、化粧してもしなくても、あまり変わりのないおのれの顔をぼんやり眺めていると、濡れないよう棚の上に置いていたスマホが鳴り出した。

 はいはい、と取ってから気づく。

 逸人からだ、と。

「……もしもし?」
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