パクチーの王様

 兄は、出張で、バンコクに行ったら、全然料理にパクチーが入ってなくて。

 覚悟して行ったのに、なんだと思って、日本に帰り、パクチーを食べまくったら、はまったとかいうよくわからない人なのだ。

「パクチー好きなの、実は日本人だけなんじゃないかと思うことはあるな」
と逸人も呟いている。

 向こうの料理には、パクチーが入っていても、さりげなく入っているくらいのものだからだ。

 それぐらい自然に使う食材のひとつ、ということなのだろうが。

「慣れない食材でインパクトがあるうえに、あの強烈な匂いなのに、向こうの人は平気で食べてるから、余程好きなものなんだろうと思い込んでしまうんだろうな」

 逸人と父が目の前で、パクチーが如何に嫌な衝撃に満ち溢れているかという話をしていても、聖はにこにこと聞いていたという。

「俺は昔から、聖さんを尊敬してるんだ」
と逸人は言い出す。

 ええっ?
 貴方のような方が、あの不出来な兄をですかっ?
と芽以は思った。
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