パクチーの王様
店がパクチー専門店だと気づいて出て行こうとしても、この目で脅され、無理やり、山盛りのパクチーを機械的に食べさせられそうだ、と思っていると、暗い部屋の前で立ったままの芽衣に、帝王様は言ってこられた。
「布団は運んである」
はっ、ありがとうございます。
わたくしごとき庶民のために、わざわざ、と言いそうになる。
およそ、夫婦の会話ではない。
「それと」
と運んでくれた芽衣のキャリーバッグを部屋に入れ、電気をつけながら、帝王様は、
「大家さんに許可を取って、鍵をつけたから」
と鍵を渡してこられた。
「年末だから、すぐには無理だと業者に言われたので、自分でつけたから、南京錠だ」
何故、南京錠っ!?
と部屋の内側を覗くと、なるほど、鍵が開いたままの南京錠が引っかかっている。
外側でなくてよかった、なんとなく……とそのひんやりとした鍵を手に芽衣は思う。
「ちゃんとかけておけよ。
夜中に俺が忍んで来ないように」
……ジョークですか?
ジョークなんですよね?
と思いながら、芽衣は固まっていた。