パクチーの王様
このような人が私のところに忍んでくるとは思いがたいのですが。
っていうか、よく考えたら、我々は夫婦ですよね?
鍵の必要性がよくわからないのですが、と思っている間も、逸人は家の中の説明をしてくれる。
「風呂もキッチンも好きに使っていい。
店を手伝うのは、仕事を辞めてからでいいが。
朝晩空いた時間に、感心なことに店を覗きに来たりするのは構わないぞ」
「の、覗きに行きます」
感心なことにと付け加えてはいるが、最早、脅迫……と思いながら、芽衣は逸人を見上げた。
「じゃあ、おやすみ」
と言って、逸人はさっさと階下に下りていってしまう。
なんだかよくわからないクリスマスの夜。
と、ともかく、部屋に入ろう、と芽衣はこれから自分の部屋になるらしい部屋へと入ってみた。
窓際に木のデスクがひとつと、部屋の中央に布団が一組畳んで置いてあるだけの部屋。
新しい人生の始まり――
なのかもしれないが、よくわからない、と思いながら、部屋を見回した芽衣は気づいた。
部屋が暖かい。