mirage of story
序章
〜0〜 









「────必ず奴を捕らえろ」





遠くの方で声がする。

それは氷のように冷たくて、刃物のように鋭い狂気を纏い少女の鼓膜を震わせる。



そんな声を背中に感じて、真っ暗な漆黒の闇の中を少女は走った。

ッ。
後ろからは無数の足音が迫る。





このままでは殺される。

そう感じた瞬間に悪寒に似た寒気が全身を迸った。




だんだんと迫り来る死への足音。
だんだんと深さを増していく果てのない闇。

足が竦む。
怖い。凄く怖い。
この場所から逃げ出したい。









.........。

だが少女にはどこまで続くか分からないこの闇の中をただひたすら走り続けることしか出来ない。
それしか術が無かった。

足を止めた先に待っているのは、死。
それ以外の何物でもないことを少女は知っていたから。
だから、だから生きるためにその足を止めるわけにはいかなかった。
走り続けるしか無かった。











――――。ッ。

だが想いとは裏腹に思うように動いてはくれない少女の足。


縺れ絡む足。
そうして次第に遅くなり遂には止まってしまう。
残酷なものだ。
幼い少女の力は無情にも呆気なく尽きる。











(もう、無理なのかな?)



少女は思った。


極限まで奪われた体力。
乱れた彼女の荒い呼吸。
苦しくなって咳き込んだら、口の中で鉄臭い血の味がした。

意識は朦朧。
闇の支配する視界はぼやけて、より闇を濃くする。








諦めてしまおう。
もう、楽になろう。

諦めが少女を誘惑し、その誘惑に負けて彼女はその場に倒れこむ。

迫り来る足音の中、少女は目を閉じる。
静かに死を覚悟した。






.......。
これで解放される。
もう、苦しまなくてもいいのだ。

覚悟した死までの時間はやけに長く感じられた。
そのうちに恐怖は何処かに消え去って、凄く安らかな気分になった。






死を前にこんなにも穏やかな気持ちになるなんて。
少女はそう驚いたが今はもうどうでもよかった。





 

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