mirage of story
「...........否定はしないさ。
だがな、ロキちゃん。
俺は恐怖を捨てたんじゃない......恐怖って感情を抱きすぎて擦り切れちまったんだよ」
前を見据えたままの鮮やかな紅と無感情な紫色の瞳。
正反対のように見える二人の瞳に、今全く同じ闇を垣間見る。
だが前だけを見据える二人は、そのことに気が付かなかった。
「..............そうであるなら尚更、私とお前は似ている。
私も同じ。恐怖を自ら捨てたわけではない。
お前も、そして私も正常な彼等とは違う。
私達は―――異常者だ」
そう言うロキの無感情だった声が、少しだけ自嘲を帯びた笑いを含む声に変わった。
その僅かな変化にジェイドは驚き、ロキを見る。
すると、どうだろう。
あれだけ無愛想な無表情なロキがほんの少し、本当にほんの少しだけ笑っていた。
ジェイドは彼の過去は知らない。
だがその笑みに少しだけ彼の中に在る過去と本質を覗いた気がした。
「ははっ、ロキちゃんが俺と自分を"私達"一括りにするなんて凄い進歩!
やっぱりロキちゃん、俺のこと嫌いじゃないんじゃ―――」
「いや、嫌いだ」
「.........だからね、ロキちゃん?
俺さ、こう見えても実は凄ーく繊細で傷付きやすい子なわけで――――」
「............まぁ、恐怖の感情が擦り切れたと言ってもこれから立ち向かうは世界の終わり。
異常者である私達にも、死を目の前にすれば蘇るかもしれない。
......遥か昔に無くした恐怖というものが。怖いという人らしい感情が」
「......無視?」
「さぁ、あと一走りだ。
気合いを入れ直して行くぞ」
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