mirage of story
「あー何でだろう。
何だか視界が霞んできちゃったぞ、俺」
併走し走る二人を乗せた馬。
走りながらの会話。
珍しく成り立っていた二人の会話が、またいつもの一方的な会話に戻る。
「なぁロキちゃん、ロキちゃんってば―――.....」
タッ―――。
.......。
ジェイドのふざけるような口調の言葉が、フッと途中で途切れた。
それと同時、ロキの隣を走っていたジェイドの馬が唐突にその足を止める。
「どうした?」
後ろで止まる気配を感じて、ロキは怪訝そうに顔を歪め手綱を引いて馬を止めさせる。
急に止められた馬は息を荒くしながら、不思議そうにロキを振り返る。
ロキは振り向く馬の鼻面を軽く触れるように撫で、それからまた手綱を引き馬を反転させた。
「何をしている?
休んでる暇などない。
そのくらいお前のその軽い頭でも理解出来ているだろう?」
併走していたはずのジェイドが振り返れば数メートル後ろに居た。
その後ろには後れをとっていた他の兵達が、先頭を行っていたこの二人を追い掛けるように走ってくるのが見える。
後ろから馬の蹄の音が迫る。
だが、ジェイドは馬を止めたままある一点を見つめて一切動かない。
ジェイドを背に乗せる馬は不意に変わったジェイドの様子に、どうしていいのか判らずに辺りを見回しオドオドしていた。
辺りは相も変わらずの悲惨な世紀末の光景。
転がる屍も、突然止まる彼等を何処か不思議そうに見上げている。
急に止まったその反動で舞い上がった土埃が、ふわりと静かに落ちて止む。
「聞こえているのか?
止まっている時間は――――」
「............あれは」
ロキの声を遮り、ジェイドが呟いた。
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