mirage of story
「え......は、はいっ!」
兵達は何か言い出そうであったが、ロキの瞳が有無言わせなかった。
彼等は返事だけすると、一人違う方向に馬を向けるジェイドから、自分達が向かうべき方向へと進路を取り直す。
ダッダッダッダッ。
ロキはその動きを流し目で確認し、また手綱を引き走り出す。
兵達はそれにハッとしてそれぞれに手綱を引き、ロキを追い掛けた。
馬の蹄の音を折り重ねて、ロキは軍勢を率いてその姿を遠退かせた。
その場に、ジェイドを一人取り残して。
馬達が巻き起こした土埃の中、ジェイドは遠退く彼等を笑みを浮かべたまま見送る。
いつものような笑みで、軽くヒラヒラと手を振った。
..........。
それから遠退いた彼等の姿が米粒くらいに小さくなり土埃も治まって、彼は先程まで視線を送っていた場所へと再び意識を戻した。
その時、もう彼の顔からはヘラッとした軽い笑みは―――すっかり消えていた。
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