mirage of story
今では忘れかけていた事実だけれど、シエラは本来は一国の姫だ。
今は大きく道を逸らされ現在を歩んでいるが、本当ならば彼女は剣を振りかざす戦いなどには全く縁の無い存在。
五年前、あんな出来事が起こってしまう前には誰もが今この時の彼女の姿を想像出来なかったに違いない。
事実、今こうして当然のように剣を握り戦いへ赴こうとしているシエラにも、今この現実を想像することさえ出来なかった。
ライルの言葉に、今では当然となったこの現実にハッとしてシエラは驚いた。
「色々変わってしまったから......本当に、沢山のことが。
私も、そして貴方も」
「........そうだな」
互いに知らない五年という空白の時間の重さを、二人は改めて思い知った。
ずっと共に居るはずだった二人の間にぽっかりと空けられた時間。
その間に二人がそれぞれに歩んだ濃密な時間は、語っても語り尽くせるものではない。
「貴方も変わった。
貴方は私の知らない間に凄く大人になった、そして凄く.....険しい顔になった。哀しい顔になった。
私のせいだね。
私は近くに居ても居なくても、ライル貴方にいつも迷惑や心配ばかり掛けてしまう」
フフッとシエラは、自分を嘲るように笑う。
「そういう面では、私は変わっていないのかもしれない。
ルシアスであってもシエラであっても、記憶が無くなった時の中でも貴方は常に私の何処かに存在してた」
「........俺だって変わってないさ。
ルシアスとして側に居た時もシエラとして敵で居た時も、俺はお前に依存していた。
目的が全く対であっても、俺が生きようとする道には必ずお前が居た」
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