mirage of story
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迸る争いの火花。
一瞬静かだった世界が、結末を求めて冴え渡る。


大勢の人が斬り掛かるは黒き竜とそれを従える者一人きり。

多勢に無勢。
だが力は互角、いや多勢の方が劣る。




飛び交う剣の音。
地を揺るがす轟音。
黒き竜の攻撃にまるで木の葉の如く散る人の断末魔。


シエラもライルもジスも、それぞれ剣を手に取り戦場を舞う。

黒き竜はそんな彼等に闇を振りまき襲わせる。
だがその闇を切り裂き、元凶を討つべく前へと進む。







ザンッ。

いくら闇を裂いても、またすぐに沸き上がる。
幾ら斬ろうとも、ただ体力が消耗されるばかりで倒すべき相手には何ら傷を付けることは出来ていない。


ザンッ。ザッ。

だけれど、闇を斬らねば闇に飲まれて命を取られる。











「シエラ、あの男は......カイムは居たか?」



闇を切り裂き少しずつ前へと進んでいくシエラ。

それを援護するように後を行くライルは、前を行く彼女の内を密かに察し尋ねる。
彼女のもう一つの目的、この場所に居るはずの彼女のシエラとしての大切な人を捜すという目的もライルは彼女に果たさせてやらねばならない。










「........いいえ、まだ見付からないの」



答えるシエラ。
彼女の中に過ぎるのは不安と、カイムは彼女へと残した"さようなら"の言葉。

それでもシエラは動きを止めることなく、闇を切り裂き続ける。







「そうか」



そんな彼女の姿に、ライルはそうとしか答えられない。


きっとカイムというあの少年は、シエラという一人の人間として生きてきた彼女にとってかけがえのない大切な人。

彼女と彼の間にどのようなものがあるのかは、悔しいがライルには判らない。
だから下手に励ましたりだとか、きっと大丈夫だとか、そういう無責任な言葉は掛けることが出来なかった。







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