mirage of story
(どうして、どうして思い出せないの―――)
そのはずなのに、どうしてもその人の姿を見出せない自分を彼女は自問する。
「――――っ。
なぁ!シエラ!
あれ......彼処がシエラが言ってた場所じゃないのか!?」
歩く歩く森の中。
当然の如く迷った二人が歩くその先。
シエラが頭の中を支配する違和感に意識を囚われていた矢先、唐突に耳に飛び込むライルの声。
「え.....ッ!」
ハッとして意識を前方に戻すと、前には立ち止まったライルの背があってシエラは止まりきれずにぶつかった。
トンッ。
背に感じた軽いその衝撃にライルは振り返るが、彼女がぶつかったその事には触れないでもう一度同じように繰り返す。
「この場所......シエラ、お前が連れてきたかった場所って此処じゃないのか?」
再びその声が聞こえる。
それと同時に、彼女の意識に流れ込むフワリと漂う柔らかい香り。
「そう........この場所だわ」
その香りだけで、今こうして彼女達がこんなところに居るのかという目的を―――彼女がどうしてもライルを連れて行きたいと国を立ち上げて以来初めて二人で遠出をしたその目的の場所が此処であると確信してシエラは声を上げた。
懐かしい、そしてつい今まで違和感を感じていた過去の記憶と今が重なる。
「綺麗、だな」
森の中、唐突に開けた場所。
白く儚く揺れる小さな花々が咲き誇る、花畑。
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