mirage of story








無意識に避けていた、まだ遠くはない辛い過去の琴線に触れてしまうような言葉。
彼女の隣に居ながら、言葉には出せずに自分の奥に仕舞い込んでいた言葉。


ハッとした時にはもう幾らか言葉として出てしまった後で、ライルは自嘲気味に笑って彼女へと話を戻す。

















「............思い出せないの。

そう、ライルと同じよ。

確かに私は誰かと共に居た。
あの日のあの時の記憶はまだ全部鮮明なのに――どうしても思い出せない。私はあの時、誰と居て誰と同じものを見て同じものを感じて.....誰とその時を共有したのかが。

そこだけがぽっかりと欠落してしまったみたいに」




主がシエラへと戻された会話。

打ち明けた記憶の中の違和感は、どうやら自分だけのものでは無かった事を知り一層にその招待が気になる。
違和感を感じる記憶は違えど、それを与えるものは恐らく同じものであるとシエラは思った。








「記憶なんて消したいと願っても早々に消えるもんじゃないのに......」



ライルもその違和感に怪訝そうに顔を歪める。


実を言えば、ライルもシエラと同じように記憶の節々でこのような違和感を感じることが幾度かあった。
だがそれはほんの些細なものとしか感じなかったために、深く追及しようとは思わずにそのまま過ごしてきた。



だが今、シエラの言葉に彼の中でそんな違和感が一気に膨張する。

今まで気に留めなかったものでも、一度気になり出したら歯止めが効かなくなるのが人の性。









「うーん......駄目だ。
どうしても思い出せない」



頭の中に靄のようなものが広がって、ライルは落ち着きを無くして無意識のうちに右往左往し始める。

その度に辺りを取り巻くレイリスの花の香りが揺れ、動きと共に巻き上がる風に繊細な白色の花弁が少しだけ舞う。






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