mirage of story









「それにね、ライル?前とは違うの。

思い出したくても思い出せないっていうのは一緒なんだけれど。
私がルシアスの記憶を失っていたあの時とは、何か違うのよ」



「違う?」




右往左往する彼を止める訳でもなく、シエラは彼の方へ進み出る。

そして続けられる言葉。
その言葉に、ライルの右往左往する足も止む。









「えぇ。
.......何が違うのかって言われると、上手く説明は出来ないのだけれど。

なんて言うかその......前は記憶が全部無くなった訳じゃなくて、自分の何処ずっと奥に鍵を掛けて押し込められていた感じだった。

でも今回の感じは違う。
今思い出せないものは、もう私の中からその存在自体が欠落しているというか―――そこだけに穴が開いていて、もう私の中にその記憶自体が無いような感じがするの。

自分でもよく分からないけれど」





記憶を失った経験がまだ真新しく在るシエラ。

早々記憶喪失を経験した者など居るものでは無い。
当然ライルにはその経験も無くその感覚も分からないのであるから、シエラは彼に自分の中で感じ取ったその違いを伝えるのに四苦八苦する。



どう言葉にすればよいのか。
自分の中ですら定かでないその違いとその原因を、他者に伝えることはそう簡単ではない。












「なんていうかね、前のは意識の何処かで私自身が記憶を閉じ込めて忘れさせたという感じだけど.......今回はね、私自身じゃない。

外側から私自身以外の別の力が働いて、その記憶を消してしまったみたいな―――そんな感じがする」



「..........意図的にってことか」






意図的。

その記憶をまるで元からそこには無かったかのように抹消する。
そんな所業が、果たして誰が出来るというのか。


意図的、つまり誰かの意思によるものだとしたならば.....単なる忘れたという表現とも記憶喪失という表現とも全く別物になる。






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