mirage of story
「.............水竜と炎竜の仕業か。
記憶を消すなんてこと、人の手で出来ることじゃない。
あいつらの仕業じゃないとしても、きっと何か知っている」
「.........そうかもしれないわ」
浮かんだのは、二匹の竜の姿。
証拠は何も無く推測に過ぎなかったが、他に浮かぶ姿は無い。
ライルの言葉に、シエラも同意するように頷く。
花畑の真ん中。
舞う白い繊細な花弁に取り巻かれた二人。
ライルは空間の上にぽっかりと開いた空を見上げてポツリと言い、彼女は立ち尽くし何処でもない所を見つめて思考を巡らす。
この場所。
巡る思考の奥に繰り返し流れる違和感ある記憶。
母代わりであったエルザを失った傷癒えぬあの時、追い討ちのように全てを奪われ失った。
憎かった。哀しかった。辛くてどうしようも無かった。
だけれどそこで立ち止まることなく、絶望に後ろを向くことは無かった。
心も身体も傷だらけだった。
立ち上がり前に進むことなど出来る状態では無かった。
だけれど、そんな状態であったはずの記憶の中のあの時。
誰かと共に居たこの場所での記憶の中で、シエラの中に在ったのは絶望でなく前へ進まなければという強い意志。
そして絶望的な状況とは全くの対に存在する、幸福という名の感情。
幸福。幸せ。
それはあの時、確かに感じていた感情。
そう―――確かにシエラはあの時、自らの隣に寄り添った誰かにその感情を抱いていた。
絶望が蔓延る最中、与えられた幸福。
それを与えた人物はきっと彼女にとって大切でかけがえのない存在であったのは間違いない。
なのに、思い出す事の出来ないこの矛盾。
大切な記憶。
それをもしも誰かに奪われているのであれば、黙っては居られない。
記憶を失い大切なものを失いかけた過去のあるシエラにとって記憶はもう二度と失いたくはないもの。
それを理由さえ分からないまま奪われることは、耐え難い。
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