mirage of story
「忘れてはいけない人よ。
どんな理由があっても、私は―――私達はその人のことを忘れたままではいけない」
「あぁ」
".................それほどにその者のことが、彼のことが気になるか"
唐突に自分達以外の声が響いて、二人は声のする方を見る。
―――。
そこには何の姿も無い。
だけれどそこに居ると分かる、確かな存在感。
水竜と炎竜。二匹の竜。
二匹の重なる声が二人に直接語るように響く。
二匹の竜と二人。
それぞれは共に契約で繋がっており、両者は以心伝心。
はっきりとした形では無いが、互いに考えていることは心を通して相手にも何となくという曖昧な形だが伝わる。
きっと竜達に、二人の抱く疑問とその疑問に対する不信感が届いたのだろう。
そしてもうすぐ喚び出され、それを問われるだろうことも。
だからこうして竜達は、それを承知の上で自らこうして二人の意識の表に出てきたのである。
「やっぱり貴方達は、何かを知っているのね」
語りかけられた言葉に、シエラは何の姿も見えないただの空間を見つめて静かに聞いた。
"............あぁ、如何にも我等は知っている。
君達が知りたいと今望むそのことを。君達知り得ぬそのことを。
我等は知っている―――我等だけはあの者を、彼を覚えている"
我等だけは。
その言葉だけがやけに強調されて聞こえた。
言う竜達の声はいつもと変わらぬ低く荘厳な声。
だが、共有