mirage of story




 
 
あれほど焦っていたさっきと比べ、心は落ち着いていた。





シエラの村を救うことは出来なかった。それは紛れもない事実。
でもシエラを救うことは出来た。


シエラを失わないで済んだ。
その気持ちで胸が満ちる。





自分の故郷が消え去っていく時の自分の小ささ、無力さを今度は感じることはなかった。

確かに自分がシエラの村を救えなかったことでシエラは故郷を失うことになった。
帰る所がなくなる辛さ。
カイムには、それはよく分かる。




だけどそれより何より、命が無くなってしまえば全ての意味が無くなる。
所謂、命あっての物種だ。



シエラの命は救うことが出来た。

何も出来ずに悔やんだ、あの時の自分とは違う。
大切な人の命は、消えてない。








死にかけていた、シエラの命を救うこと。
それが、今のカイムに出来る最大のことだと思うから。



それはシエラの村を救うことが出来なかった自分への言い訳かもしれないけれど、これは現実。
どんなに辛くても逃げたくても、変えることの出来ない現実。

受けとめることしか、出来ない。





悔やんでいたって、哀しんでいたって、何も前には進めない。
どんなに生きているのが辛くたって、たとえ一人になったって決して生きることを諦めてはいけない。
 
 
 
 
 


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