mirage of story
「大丈夫よ!この辺りのことなら任せておいて!
自慢じゃないけど、私この森でしか迷ったことないのよ?」
胸を張って、自慢気に言うシエラ。
「..........いや、それ本当に自慢にならないよ。
一度、外に出た方がいいかな?」
カイムは呆れたように笑う。
その呆れ顔に少し胸が傷付くが、こんな状況でも怒らないところが彼の優しさと言ったところか。
「出るのは駄目よ!
魔族達が、奴等が私達を追って戻って来ているかもしれない。
此処ならば身を隠しながら村から離れられる。
だからこの道にしたんでしょう?」
カイムの提案。
シエラはパッと立ち止まり驚いてカイムを見て言う。
そして勢いよく言った後、その勢いをスッと失って少し間の後に真剣な面持ちで言葉を続ける。
「....それに」
「それに?」
いつになく神妙な面持ち。
その顔に何か重要なことを言うのかとカイムは足を止め彼女に注目する。
きっと、何か重要な訳があるのだ。そう思いカイムは期待に似た感情で彼女の言葉を待つ。
「......それに外へ出る道も分からなくなっちゃった。え、えへへ。
つまりはもう後戻りも出来ない訳で。
前に進むしかないのよ、さぁカイム!」
真剣な面持ちから、枯れた笑いを溢すシエラ。
後戻り出来ない。
前に進むしかない。
端から聞いたら凄く格好いいことを言っているように見えるが、この迷子という情けない状況を前には帳消しだ。
その笑いの間に細目で、恐る恐るカイムの表情を確認する。
カイムは笑ったまま制止。
そして数秒後、そのままの笑み口を開く。
「―――完璧な迷子だな」
確信の言葉。
まぁ、その確信は実に残念な確信だけれど。
緑が広がる中で、二人の旅立ちもその緑に溶け込むように歪む。
何とも先が不安な旅立ちだとカイムは心の中で思った。
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