mirage of story
「───さぁてと。早く用事を済ませなきゃね。
あいつらが....私達を追って来てるかもしれない。
今は大丈夫みたいだけど、この場所に手が及ぶのも時間の問題だから」
「そうだな。
今、あいつらと鉢合わせるのはまずい。
俺達の状況が不利すぎる」
シエラは昨日魔族達に、ライルに酷い怪我を負わされた。
シエラ自身は何ともないという顔をしているが、カイムは彼女が自分を気遣い無理をしているのだと見抜いていた。
そんな手負いの状態で、敵と戦うにはリスクが大きすぎる。
だから極力、いや絶対に鉢合わせるのは避けたい。
.....ガチャッ。
シエラは、ゆっくりとドアに手をかけ開ける。
その扉の先に広がる光景はシエラにとって昨日ぶりのはずなのに、やけに懐かしく感じられた。
「.......ただいま」
シエラは小さな声で呟く。
もちろん、返事を返す者は居ない。
「ここが、シエラの家か」
中へと進むシエラの後を追うように、カイムも部屋の中へと入る。
何だか入った瞬間に、温かい何かに包まれるようなそんな不思議な感覚を覚えた。
「私、ちょっと支度してくるから此処で待っていて?
すぐ終わらせるから」
「うん。分かったよ」
シエラはそう言うと、奥にある部屋へと駆け込んでいく。
タッタッタッタッ。
そして奥からは、ガサガサと中を探るような音がする。
(どうしようか)
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