mirage of story
 





 
 
 
 
だが後ろから近付いて来る足音は、一向に遠ざかることはなく大きくなるばかり。

.....この時、ライルは初めて死に対する恐怖を覚えた。



だがライルが怖く感じたのは、自分の死への恐れからではなかった。

それは、ルシアスの死。
自分が藻掻き苦しみ死ぬ恐怖よりも今自分が掴むルシアスのこの手が離れ、もう二度と握れなくなるその恐怖の方がずっと大きかった。



そんな恐ろしいこと、考えたくもなかった。




隣で傷付き、体を震わせているルシアスが自分の前から消えてしまうなど。
そんなこと、夢でも見たくはなかった。













(───だけど、ルシアスは俺の元から消えてしまった。
この俺を置いて....人間に!あの女に!)



ライルは感情が高まるにつれ、前に進む足も速くなっていった。






(何度も、ルシアスを捜した.....何度も名を呼んだ。

だけど、返事は返ってこない。
あいつの.....ルシアスの声はもう、聞こえないんだ)




握っていた手のひらに力が入る。
爪が肌に食い込んで一筋の血が流れる。肌に痛々しい傷が残る。

だが、手のひらに籠もった力は抜けることはない。















(俺は何もかもを奪われたんだ。
幸せも喜びも、ルシアスも───全て、あの女に)







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