mirage of story
もう一度、森の中に戻ろうと後ろを向きかけたライル。
だがその目にフッと何かかが飛び込んで、動きを止める。
(.....あれは)
少し遠くに見える一つの家。
その家が、ライルの眼中を支配した。
もちろん、その家自体が気になったのではない。
まぁこんな離れた所に家があるのは意外ではあったが、今は問題ではなかった。
問題なのは、その家の扉が今まさに開いたことだ。
そして次の瞬間、ライルは息が止まる気がした。
そのたった今開かれた扉から出てきた人影。
ゆらりと揺れる影。
その姿に、ライルは目が離せなくなった。
「────シエラ」
ライルは憎しみの籠もった声で呟いた。
その影は、ライルの蒼い瞳に濃い黒色をして映された。
――――ッ。
そしてその呟きが虚空を漂うと同時にライルの体は、何か考えるより早く前に走り出しす。
腰に納まっていた長剣を向かう先に見える、憎き者たちへ向けて。
走って行くライル。
そんな彼の瞳から、既に理性は消えてきた。
疾風の如く走るライル。
それに気が付いたシエラとカイムと目が合う。
運命は残酷だ。
神は残酷だ。
神の悪戯によって追う者の瞳が遂に、追われる者の獲物の姿を捉えた。
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