mirage of story
しかも、シエラの怪我は完治していない。
本人は平気なふりをしたって、身体は付いてこれるはずはない。
そんな状態でライルを振り切るなんてこと不可能に近い。
まだ痛む身体がはっきりとその現実を突き付けていて、それを突き付けられたシエラは悔しさに唇を噛み締める。
(逃げなきゃ。早くここから。
じゃないと、私達は確実に殺される)
そんな思考が浮かんだシエラの中に、恐怖が駆け巡る。
この世の全てをも震えさせるような、禍々しさ。
それほどまでに、ライルの纏う殺気は濃さを増していた。
(怖い)
蘇る昨日の記憶。
炎。燃え堕ちる村。
誰も居ない───静か過ぎる街。
聞こえるのは、街を燃やす忌々しい炎の音だけ。
捜す....探す。
でも、見つからない。
煙の中に見える人影。
突き付けられた自分の知らなかった事実。
自分の胸元に輝く指輪。
そして、振り下ろされる剣。
(......怖い)
生々しい記憶。恐怖。
シエラの足が、細かく震える。震えが抑えられない。
「シエラ、大丈夫か?」
シエラのそんな様子を察したのか不意にカイムの心配そうな顔が、シエラを覗いた。
「......大丈夫。
それより、アイツから逃げ切る方法を考えないと」
だが、今は恐怖におののいているような場合ではない。
シエラはそう問うカイムの声に恐怖を奥に飲み込んだ。
「そうだな。
今、ここで剣を交えることは出来ない。
逃げて傷を癒やして体制を整えるのが、今は何より先決だ」
.