mirage of story
〜2〜 







まだカイムと出会う前の記憶。
今からほんの少し過去に遡った記憶。

初めてシエラがこの街を訪れたのは、まだ彼女が一人孤独な旅人だった時。




魔族への復讐を誓って、旅へと出た。
残酷な程に冷たい戦いの世界へ少女がたった一人身を投げ出した。

そんな彼女が一番最初に立ち寄ったのが此処ランディスの街だった。

閑静な佇まいの落ち着いた街並み。
大きく裕福な街とは言えないけれど、それでもシエラが今まで暮らしてきた村よりはずっと大きかったしそれなりに発展していた。






―――。
旅の始まり。
この街を訪れた丁度その日だった。
不安と孤独が心の中を占拠していたあの時、運悪く突然の雨に降られ彼女は街角の木の影で降り止むのを待っていた。


.......。
でもなかなか雨は降り止まない。
この時シエラは、身動きが取れずにただ途方に暮れていた。

突然の雨。
初めての地で頼る人は居ない。
そんな中旅の疲れも重なって木の下で蹲るように座り込んでいた彼女に、街の人は見知らぬ旅人であるにも関わらずに温かく手を差し伸べてくれたのである。




招かれた温かい家の中。

雨に濡れて冷えた身体を、暖炉の火が。
そして不安で冷え凍えていた心を、この街の人達の温かいもてなしが温めてくれた。




今でも、その温かさが心のどこかに残っている。
この街の人達が、シエラの不安だらけの長く孤独な一人旅の幕開けを明るく温かい、勇気の出る幕開けにしてくれた。

シエラにとって、この街で出逢った人達は深く感謝すべき人達。








.........。
そして今再びこの場所を訪れた彼女。

今度は仲間が居て一人じゃない。
だけど不安感はあの時と同じ。あの一人で世界に身を投げたあの時と不安は変わりはしない。






 

.
< 269 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop