mirage of story
 
 
 
 
 
 
だからこそ、新たな旅の幕開けをまたこの街で迎えたかった。



――――。
そんな気持ちもあって、この街へ再びやってきたのに。

目の前にあるのは、頭の中の記憶と全く重なることのない廃墟と静けさ。彼女の中に嫌な予感が駆け巡る。







(嫌)



この街の状況が彼女の故郷が消えた、いや消されたあの時の状況と重なる。
重ねたくなどない。
でもどうしても重なってしまう。






(.....そんなこと、絶対にない) 



街の状況を前にして頭の中で重なり合うイメージ。
否定せずにはいられない。















────。
ポツリッ....。

戸惑いと動揺。
それらを不意に空から降ってきた一粒の雫が掻き消して、彼女を現実へと引き戻す。










「雨か」



隣でそう囁くカイムの声が聞こえる。

あの時と同じ雨。
でもあの時と同じでないのは誰も居ないこの街の静けさ。
何だか淋しい。



ッ。
壊れた街の埃臭い匂い。
そして雨が湿らせる土の匂いが辺りに広がって鼻をツンッと刺激する。










「雨が強くなってきた。
シエラ、何処かで雨宿りしよう。
街の人を捜すのは、雨が止んでからにしよう」





 


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