mirage of story
少年の言葉が少女の胸に温かさを灯す。
一度は諦めた生への勇気が湧いてくる、そんな気がした。
パッ。
手を取り、少年の力によって倒れこんだ身体が引き上げられる。
弱った身体は思うように動かなくて少女はふらつくが、少年がその身体を受け止めてくれた。
触れる肌からじんわり人肌の温かさが伝わってくる。
あぁ、生きている。
その温かさはそんな実感を彼女にもたらす。
ザッ。
体勢を整えて、少女は少年と共に再び走り出す。
今度は一人じゃない。
手と手で繋がった少年と共に。
希望の光を求めて。
――――ッ。
走る。
走る走る、走る。
ッ。
するとその先に―――光。
少女には今まで見えなかった光が、遠くの方に見えた気がした。
少女はその光に向かって手を伸ばす。
あと少し。あと少し。
だが、そのあと少しの所で届かない。
届きそうで届かない距離。
そのあと少しの距離がもどかしかった。
(......生きたい)
少女はもう一度、精一杯に手を伸ばした。
思い切り伸ばした手。
その伸ばす手の平が、先に見える光と重なる。
サァーッ....。
少女の伸ばした手が光を掴んだその瞬間。
唐突に風が吹き抜けた。
その吹き抜けた風の音、その音と交ざって少年が何かを叫ぶのが聞こえた気がした。
すぐ隣に居たのに。
そのはずなのに、その少年の声はやけに遠く聞こえた。
パァァ....ッ。
風の音が響き渡る中、少女の掴んだ光が次第に広がり辺り一面を光で満たす。
辺りが白い闇に包まれる。
その光の眩しさに少女は目を瞑る。
目を閉じても在るのは真っ白な闇だった。
.......。
だんだんと光が和らぎ、再び少女が目を開けてみる。
ッ。
そこには見たことのない緑溢れる森が広がっていた。
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