mirage of story
 
 
 
 
 
 
その中年の宿屋の店主は、そう言うと男に背を向けて人混みに消えていった。

ッ。
その姿を男は見届けてから宿へと向かうべく教えられた道へ足を踏み出そうとする。










「ちょ....ちょっと、兄ちゃん!」




だが後ろから呼び止める声。
踏み出されようとしていた男の足は止まる。

振り返ってみると、さっきの宿屋の店主が居た。







「兄ちゃん、大事なこと聞くの忘れてたぜ。
........兄ちゃん、名前なんていうんだ?」



あぁ、そういえば名乗っていなかった。
男もハッと気が付いたようにまた軽く笑う。







「ハハッ!そういえばまだ名乗って無かったねぇ。
ジェイド。俺の名はジェイドさ?

じゃあ、おっちゃんの店に世話になるぜ?」




男。ジェイドと名乗ったその男は答えた。






「そうか!
じゃあ、また後でな?ジェイドの兄ちゃん」




宿屋の店主は、そう言うとまたジェイドに背を向けて人混みへと消えて行った。

その姿をジェイドはもう一度見送る。
そして大きく一つ息を吐き出した。








「─────さぁ、行きますかねぇ」




ジェイドは呟くように言うと、宿屋に向かうために人混みに背を向けて軽い足取りで歩き始めた。






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