mirage of story
〜3〜








「─────ジェイドの兄ちゃん!待たせちまったな?」




アトラスの街にある一つの宿屋。

汚いとは言えないが、綺麗とも言い難い店構え。
木造の建物で、部屋の中からは木の何処か懐かしい香りがする。

雰囲気はいい店だった。



ッ。
そんな宿屋の店の中に、勢いよくドアを開けて入ってきたこの店の主人は中に居る先程会って知り合いになった男に話し掛けた。











「.....ふぁあ、おっちゃんか。
待ちくたびれて眠くなっちまったよ」



宿屋の主人のその言葉に、部屋の中で待っていた男ジェイドはグッと背伸びして答える。
大きな口を広げて大きな欠伸と一緒に。

.......。
街の中で会って、ここに来てからもう一時間くらい経っていた。








「すまねぇなぁ。
ちょっと今日はいつも以上に混んでて遅くなっちまったのさ」



宿屋の主人は申し訳なさそうにそう言うが、顔が豪快に笑っているせいか申し訳ないと思っているようには全く見えない。







「まぁ、いいけどな。
急いでるわけでもないし。
行く宛も今のところ無い.....ハハッ、暫く世話になるぜ、おっちゃん」



「..........行く宛も無いって、兄ちゃんあんた何処の人だい?」



「何処の人でも無いさ、俺は放浪者でね。
ハハハッ!
帰る場所も無いからねぇ、気楽なような淋しいような」




ジェイドはそう言うと、ヘラッと軽い笑みに見せる。







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