mirage of story
放浪者。
それは、目的もなくただ世界を彷徨う者。
ふらりと気の向くままに流れるだけ者。
.......。
今のジェイドは、まさしくそれであった。
―――。
だが当然、彼が元々このような放浪者であったという訳では無い。
今は放浪の者して生きる彼。
だが半年くらい前までは、ちゃんと仕事があった。帰る場所があったのだ。
彼はこのように見えてある魔族の大国に仕える軍人だった。
しかもその国でもトップクラスの先鋭部隊と呼ばれる部隊の軍人で、戦闘の能力も高く周りから一目置かれる存在だった。
地位も金も、不自由無かった。
.......。
だがしかし、今は職もなく行く宛も無い。
その上に今の彼はある者に追われている。
だからと言って犯罪を犯したという訳では無いのだけれど。
彼を追うのは、半年前まで仲間だった者達。
魔族の大国ロマリアの王ロアルが率いる先鋭部隊。
─────彼は、国家を裏切った反逆者としてその命を狙われていた。
地位も金も、名声もない。
挙げ句の果てには命までも狙われる。
そんな存在に成り下がっていた。
........。
そんな今の状況を考えると、放浪の身もそう楽ではないとジェイドは心の中で苦笑した。
「放浪の旅かぁ、羨ましいぜ兄ちゃん!
俺はこの店があるからな、この街から出ることだって出来やしねぇ。
いいねぇ、男の浪漫だねぇ!」
そんなジェイドの心中とは裏腹に、宿屋の店主は瞳を煌めかせる。
まるで初めてキラキラ光る宝石を見つけた子供のように、その瞳には好奇心が溢れていた。
「ハハッ!そんないいもんでも無いけどなぁ。
.........ハハッ、特に俺の場合命までかかってやがるから」
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