mirage of story
ーーー 





 

 
 
 
(此処は―――)



ッ。彼はゆっくりと目を開ける。

重々しく閉ざされた瞼はなかなか持ち上がらないのではと思ったけれど、思いの外すんなりと持ち上がり少し拍子抜けである。



拍子抜けの中で開けた視界、広がる光景。

―――――。
そこには、何も無かった。










(あぁ、夢の中か)



何も無い白の世界を見回す。

どう考えても現実世界ではない。
つまり、此処は夢の中であると彼は判断する。









(最近、よく夢を見る。
前は夢なんて見なかったのに)




真っ白な夢の中の世界で思う。


........。

思い返せば確かに最近よく夢を見るようになった。
だが所詮は夢なのでその内容は殆ど記憶に残ってはいないのだけれど。


だが最近確実に夢を見る回数が増えたのは事実。
今までは別に気にしたことも無かったのだが、改めて思うとやたら気になり出す。




――――。
こんなに頻繁に夢を見るようになったのは、確かシエラと再会を果たしたあの夜辺りからだっただろうか。

その日辺りから頻繁に夢を見る。




.......。
何故だろう?

頭の中に今まで見た曖昧な夢の記憶を手繰り寄せて思い出す。
どうして夢とはこうも覚えていないのだろう、彼は思わず眉を顰める。




ッ。
だが曖昧な記憶の中に一つ、たった一つだけはっきりとしたものを見つける。







――――。
追い掛けて、追い掛けて.......そして追い求めて、それでも結局掴めない。

何で。どうして。
行かないでよ、どうして僕を置いて行っちゃうの?



遠ざかる人の背。
大切な人の背。
追い掛けても叫んでも、掴めない触れることさえ出来ない―――父の背中。




夢の中で自分の中へ流れ込んできた感情。
幼かった自分の心の記憶と連動する夢。

.........。
それは彼の父が彼を捨てた日の哀しい夢。
何故か唯一、それだけがはっきりと残っていた。







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