mirage of story
 
 
 
 
 
 
 
 
何故その夢だけがはっきりと残っているかは分からない。
哀しい、哀しすぎる夢なのに。









(........) 




残る夢の記憶は彼の過去と連動する。

――――。
紅の彼を一人置き何も無くただひたすらに広がる世界で、彼は鮮明に残るその夢を思い出す。









(あの時、俺は父さんを追い掛けた。
でも追い付けなくて触れることが出来なくて、去っていく父さんの背を引き止めることが出来なかった。

.........あの時の俺も無力だった。
確か俺は父さんを追い掛け続けて、どうしても引き止められない父さんの背を前に力尽きて倒れたんだ)





そう。
彼の父が自らの子を、つまりカイムを捨てた日。


まだ幼かった彼には父が自分を置いて出て行くその理由が分からなくて、泣きながら追い掛けた。

幼く弱い身体で、靴も履かないまま裸足で。
寒空の中を、必死に追い掛けていた。



――――。
行かないで。

あの時去り行く父の背中に向かい叫び続けた幼い日の彼。


掴みたかった、触れたかった。父の背中に。

........。
でも無理だった。
伸ばした手は何も掴むことなく宙を切り、幼い彼はそのまま力尽きて倒れた。





倒れたまでは、カイム自身も何となくは覚えている。

はっきりと残るいつかの夢の中でも、確かに彼は倒れた。
だがそこで現実の記憶同様プツリと意識が途切れ、それ以降どうなったのかを彼は知らなかった。

現実の記憶にも、いつの日か見たその夢の記憶の中でも。
綺麗に同じ様に彼の意識はそこで途切れていた。







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