mirage of story
 
 
 
 
 


 
考えられるのは母くらいだけれど、きっと違う。

確か母は言っていた。

突然居なくなった自分を捜しに家を飛び出したら、扉の外に倒れてた。
そう母は言った。




彼の記憶が途切れたのは、母が倒れた彼を見つけたという家の前ではない。

そう、あの時彼は去っていく父を遠くまで......幼い彼の足では過酷なくらい遠い所まで追い掛けて行った。







......。
では一体、誰が? 

カイムは深まる疑問に歯止めを掛けるため、記憶のないその間のことを欠片でもいいから思い出そうと思考を巡らせる。






――――。ッ。


頭の中で記憶の糸を探る。
そんな彼の意識に唐突に流れ込むのは、微かな香り。

.......。
夢の中、香りというのも可笑しいのだけれど確かに彼に流れ込む。
それは、忘れかけていた懐かしい香り。









(─────あ.....)




唐突に何処からか流れ込んできたその香りは、もう何時の間にか消えてしまう。

ッ。
だがその流れ込んできた微かな香りは、彼の中で眠っていた曖昧な記憶を呼び起こしたようである。







(あの日あの時、意識を失った中で唯一覚えている。
あの時、倒れた俺はこの香りに包まれた。
そして温かい何かに包まれて――――)




忘れかけていたその香り。
思い出したその香り。


そうか、これは。
自分に背を向け去っていった、紛れもない大好きな父の香り。 







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