mirage of story
 
 
 
 
 
 
 
(もしかしたら父さんが?)




追い掛けても叫んでも振り返りもせず背を向け歩き続けた父。
自分達を捨てた父。


今までこう思っていた。
父さんが自分達を捨て去って行ったのは、自分達のことが嫌いになったからだと。


........。
でもそんな父が力尽きて倒れた俺を助けてくれた。

思い出す温もりに思う。
自分達は捨てられた訳では無いのかもしれない、と。









(父さんだったのか?
あの温かくて優しい感覚は)




曖昧だった記憶が、だんだん蘇ってくる。

あの感覚。
あの温かさの中に居た時、彼は凄く幸せだった。



あの温もりは決して嫌いと思う者には向けられない感情。
あの温もりは、父が彼に向けた愛情の温もり。

彼と彼の母を捨て置き去ったこととの矛盾は残る。
だが、彼の感じたあの温もりは幻ではない。







(........でも目が覚めた時、父さんはもう居なかった。
俺のことを嫌いになったわけじゃないはずなのに何で?
どうして居なくなったりするのか――――判らないよ、父さん)





倒れた彼を助けてくれたのは、きっと父である。


.......。
だがそれが彼の中で判ったとしても、一番に解決したいはずの疑問が―――どうして父が出ていってしまったのかという疑問はより深くなってしまう。



頭の中の靄は晴れない。

この疑問と矛盾の靄を晴らすには、やはり父を見つけて理由をそして真相を突き止めなければと彼は改めて感じた。







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