mirage of story
「おぉ!ハハッ、悪いねぇ?」
ジェイドは、ニカッと笑う。
「兄ちゃん、その性の悪い顔は悪いなんて思ってる顔じゃあねぇなぁ?
ガハハッ!
まぁいい、ほらよ!」
店主は苦笑いしながら酒の瓶が立ち並ぶ棚の中から徐に一本の葡萄酒を取り出すと、それなりに綺麗に磨き上げられたグラスに豪快にそれを注ぐ。
そしてそれをジェイドへと手渡した。
そしてもう一つグラスを取り出すとそこにも葡萄酒を並々と注ぎ自分の前へと何食わぬ顔で置く。
どうやらちゃっかりと自分も飲んでしまおうという魂胆らしい。
真っ昼間からの酒。
先程の発言よりこちらの方がよっぽど恐妻の怒りを買ってしまいそうな気がするのだけれど。
「って、おっちゃん!
仕事中に酒呑んだりしていいのかい?」
その様子に、勿論突っ込みを入れる。
「何言ってんだ。
兄ちゃんだけ呑んで、俺が呑まないっていうのは不公平だろうが?
―――それに」
それに。
店主はそこまで言って葡萄酒を一気に半分くらい飲み干す。
「それに、ここは客が来る方が珍しいんだ。
どうせ今日も来やしねぇさ」
........。
自慢出来ることでもない。
そうであるのにこの店主と言ったらあまりに自慢気に言う。
そして少なくなった自分のグラスに葡萄酒を注ぎ足した。
「.....あぁあ、ハハッ!奥さんに怒られても俺は知らないぜ?」
そんな店主を前に軽く笑うと葡萄酒を口に含む。
まぁ、いいか。
ジェイドは程よい酸味のある葡萄の風味と喉を伝う感覚を楽しむ。
うん、これはなかなか美味い。
その美味しさに吸い込まれるようにもう一口含む。
「おい、兄ちゃん。
あんま飲むと悪酔いするぜ?この酒は結構強いからな。
今日の夜には祭りがある。
今酔っちゃ、祭りを見に行けないぜ?」
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