mirage of story
 
 
 
 
 


「あぁ、大丈夫大丈夫!」


 

「兄ちゃんよ?
こんだけ待って、祭り当日に酔って寝込んじまうなんてなったらいい笑い者だぜ?」





祭り。
それはこの街で一年に一度行われるという街を挙げての大きなイベントのことである。

まぁ、祭りと言っても街の者や街を訪れた旅人が一緒になって、飲んで騒ぐというだけなのだが。
この街ではそんな祭りが名物になっているようで、祭りに合わせて立ち寄る旅人なども少なくないらしかった。











「ハハッ、別に俺の場合は祭り目当てって訳じゃねぇんだがなぁ?

.......まぁ、親父さんの言うとおりか。
今は抑えとくかな!」




ッ。
ジェイドはそう言うと少しだけ中身の残ったグラスを目の前のテーブルへと置く。

葡萄酒は窓から差す光に反射しまるで宝石のように煌めいた。


.......。
グラスの中で揺らめく美しい煌めきを暫らく見つめる。
彼はこう見えても、結構ロマンチックな感覚の持ち主であるらしい。











─────。
ガチャッ。

そんな他愛もない会話。
静かに時が流れる午後の宿屋。


その穏やかな雰囲気の中で響く扉を開く音。
その音が聞こえて彼の意識は葡萄酒の煌めきから開いた扉へと移される。






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