mirage of story
「そうであったな。
......今日お前をここに呼んだのは他でもない。伝えねばならんことがあったからだ」
「.....伝えたいこと?」
(俺に伝えたいことだって?
今更俺なんかに伝えることなんか、何があるっていうんだ?)
ライルが最後にこの王である男とこうして対面したのは、もう数年前のこと。
もう自分が来ることはないと思っていたこの場所。
会うことはないと思っていたこの人にライルは今日、いきなり呼び出されたのである。
懐かしいこの城に。
短いようで長い時を経て。
「――――伝えねばならぬこと。
それは....ルシアス姫のことだ。ルシアス姫のことで我等は新たな情報を得た」
「......っ!?」
ルシアス。それはライルの大切な人の名だ。
大切で愛しくて、かけがえのない。でももう決して、この手の届かぬ人の名だ。
「何が....何が分かったのですか!?」
ライルは驚きのあまり、前に身を乗り出すような格好になって言った。
「......そう焦るでない。
よく聞くのだ、ライル。
あの戦乱時、姿を消し亡くなられたとされるルシアス姫。その、姫が持っていた≪水竜の指輪≫を持つ者を我々は発見したのだ」
「......っ!
ルシアスの指輪をですか!?」
「あぁ。
それも、その指輪の所有者は国境近くの小さな人間の村の娘。
......我々は指輪を我々魔族の手に戻すべくその娘に接触し、指輪の返還を要求した。
だがあの娘―――それを拒みおった」
男は忌々しげに、そう吐き捨てる。
(―――あの指輪はルシアスがいつも肌身離さず持っていた物。
.....なのに何故その娘が)
あの指輪は、いつもルシアスが首からさげていた物。
とても大切にしていた物だったはずだ。