mirage of story
もうライルには恐れることなど何もない。
........。
もう何も失うものなど残ってはいなかった。
ライルの心に迷いは無かった。
願いはただ一つ。大切なものを奪っていった人間を倒すこと。
それしか見えなかった。
「...........分かりました。
俺もあなたと共に戦います。戦わせてください―――ロアル様」
ライルは跪く。
崇めるように讃えるように、そして何処か縋るように見つめ、彼は瞳を伏せた。
そのライルの姿を前に、男―――つまり魔族の王ロアルは不気味な笑みを浮かべた。
(................。
これでまた、この世が私のものになる日が近付く。
―――待っておれ、愛しくそして忌まわしき我等のルシアス姫様)
浮かぶ不気味なその笑みは、誰にも知られることなく暫らく虚空を漂い、そして消えた。
ルシアス。
そう心で呼ぶ名に籠められた想いは、敬意か哀れみか。それとも.....。
―――――。
こうしてライルはロアルの思惑も知らぬまま、再び戦火の中へと身を投げ出すこととなる。
大切な人、ルシアスのためを想いながら。
っ。
ロアルの思惑に満ちた不気味な笑みが虚空に消えた後、瞳を上げたライルがふと窓の外に目をやると、空から静かに雨の雫が落ちはじめていた。
─―――まるでそれは、彼の皮肉な運命に哀しげに泣くかのように。
それを知る由もない彼の青い瞳にその水の粒を映しながら、雨は大地にしとしと降り注ぎ乾いた大地を湿らせた。
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