mirage of story
---






ッ。
窓辺に座り、葡萄酒の入ったグラスを片手に夜の闇に佇む男。


夜の闇にポツリと浮かぶ月。
それにグラスを翳してみては、煌めく葡萄色の光を楽しむ。
なんと趣深いことだろう。



――――。
それからその葡萄酒を少しだけ口に含むとその風味を楽しむように暫く舌の上で転がすと、惜しむように喉へと通す。










「旨い」



自分以外には誰も居ない空間で男は、ロアルは呟く。


此処は城の中。
昼間は騒がしかった従者達も、今は更けゆく夜に静かになった。

聞こえるのは、風が揺らす木々の騒めきだけ。











「このような静かな時が一番気が安らぐ。
人という生き物、騒がしくてならん」




ッ。
夜の静寂を心より満喫しているロアルは、葡萄酒をもう一口含んだ。









「.........人は愚かだ。
泣き、笑い、喜び....そして哀しむ。忙しなく、感情が行き来する」




人。
そう口にする。

それは、人間のことであるのかだろうか?
それともこの世界に生きる全ての"人"のことだろうか?









「本当に愚かな生き物ぞ。
そのような無駄な感情流され、戦い殺し合う」




―――。
ハハ.....ハハハハッ!

一旦言葉を切り沈黙した彼は、今度は一人けたたましい程に笑う。
何故だか急に込み上げてきた笑いを、どうしても堪え切れなくなったのだ。









「まぁ、その愚かさ故に....よく働く我が駒となる。

ッ。我の望みを叶える、そのための駒に」







.
< 587 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop