mirage of story
〜2〜





ザアァァ―――。

風。吹き抜ける風。
そんな中をシエラは歩く。



優しくて、それでいて時に荒々しい。
懐かしさと共に、哀しさを運んで吹き抜ける風。

シエラはそんなこの丘に吹く風が好きだった。



風に吹かれていると、何だかとても落ち着いた気分になれた。


シエラはそんな風を体いっぱいに感じながら、ふと辺りを見渡す。








村には暖かな光が灯り、周りには自然が満ちあふれる。






(此処はいつだって平和。
争いも憎しみも何も無い........此処だけ世界から切り離されているみたいに)




シエラは星の煌めく夜空を見上げふと思う。



........。
旅でのこと。
人間と魔族の争いが絶えないこの世界。
たくさんの人々の苦しむ姿。世界に満ちる憎しみという名の暗い闇。

あまりに悲惨な現実だった。


旅の中でシエラは、この村にいては決して知ることのない現実を嫌というほど知った。
大地に流される人の血。廃れる人の心に、嘆き泣く人々の声。

あぁ、思い出したくもない。


そんな争いの絶えぬこの悲惨すぎる世の元凶となっているもの、それが魔族の王であるロアルだった。




ロアルが魔族達の王となってから五年程。
このころから人間と魔族との対立は激しくなった。
魔族は両者の間にあった緊張状態を破り、近隣の人間たちの国に戦争を仕掛けるようになった。
睨み合いが殺し合いになった。

ロアルが王座に就く前に戦が無かった訳ではない。
事実大きな戦が両者間の緊張状態の発端であり、殺し合いも少なからず起こっていた。
だが、それが激しさを増しその殺し合いが日常化してきたのだ。



人間を殺し傷付けていくロアルの姿。
人間は皆恐怖を覚えた。






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