mirage of story
 
 
 
 




ッ。 
ジェイドは言葉の途中にハッと思い出したように声を上げた。






「確かあれは....一年くらい前だったな。
その時あのロアルのおっさんの命令で俺達は人間の村に行った。
辺境の小さな村だった」



「ッ」




一年前。
人間の村。

シエラはそのジェイドの言葉に自分の記憶との嫌な繋がりを感じて胸を跳ね上がらせる。







「....何のために、何のためにその人間の村へ行ったんですか?」



ジェイドの言葉に恐る恐る聞き返す。
自分の中で繋がるあの記憶を奥に押し込めて。

絞り出すその声は僅かに震えていた。






「ん?あぁ、確かあの時は魔族の逃走者の討伐だったか。
あの時は追っていた逃亡者が相当重要な秘密を握っている人物だったらしくあのおっさんが直々に俺達の指揮をしてたな。

じゃなきゃあんな小さな村に俺達がわざわざ出向くようなことはなかった」



「───そうですか」





返ってきた言葉にシエラは正直ホッとした。

追う者。逃亡者。
それを追ってのことならシエラの中で重なる嫌な記憶―――エルザがロアルに殺されたあの記憶とは違うはず。
そう思ったから。 








「ん?何だい嬢ちゃん、そんな顔して。
何か気に掛かることでもあったかい?」



シエラが心の中でホッと胸を撫で下ろすとその様子にジェイドは不思議そうにシエラを見る。




 


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