mirage of story
扉に張りつき、耳を当て様子を伺う。
だが、やはり反応はない。
聞こえるのは、耳の中に漂うノイズだけだった。
―――――ガチャッ。
扉に手を掛けて、ゆっくりとその重い扉を開ける。
扉に仕切られていた向こう側とこちら側が、一つに繋がる。
「――――ッ!?」
いつでも剣を抜ける万全の状態で、ライルは扉の向こう側へと飛び出した。
扉の向こう。
そこに在ったのは、万が一の事態でもない。ただの沈黙でもなかった。
「おいッ!?
どうした!何があったッ!?」
ライルは目の前に広がる光景に、手を掛けていた剣から手を離して
扉の向こうの何かに駆け寄った。
「......ライル....様――――」
その何か....血だらけで憔悴し切った姿の一人の兵は、弱々しくライルを見上げて擦れる声で言う。
その兵士の姿に、決して良いことではないことが起きていることをライルは悟った。
「こ....このような無礼を、お許し....下さい。王に.....ロアル様に、謁見を.....ッ!
早急に――――伝えねばならない.....ことが」
途切れ途切れに、血に塗れた兵はライルに訴える。
兵士の顔は蒼白し、意識も虚ろで瞳に宿る光も弱々しかった。
一刻も早く手当てをしなければ.....最悪の事態となることは、端から見た誰にでも容易に想像することが出来た。