mirage of story
「......一体、何事だ?」
そんな兵士を前に、ライルの更に後ろから低い声が響く。
その声の主はロアル。
ロアルは低い声を虚空に漂わせ、靴音を静かに響かせてこちらへと向かってくる。
「.....ロ...アル様ッ!
無礼なことと存じております.....ですが、早急の用――――どうかお許し....下さい」
近付くロアルの声に、兵は虚ろな意識に鞭を打ち
弱々しくロアルの方を見上げようと、身体を動かす。
だが、傷だらけの身体は言うことを聞かずに床に倒れ伏せる。
「お....おいッ!?」
ライルはその様子に、慌てて兵を抱え起こす。
やはり相当に傷が深い。
そう思い危機を感じたライルは、兵を医務室へと運ぼうと、そのまま抱え込む。
「止まれ、ライル。
.....その者、何事だ。申してみろ」
「ロアル様....まずこの者の手当てを――――」
「黙るのだ、ライル。
国家の危機かも知れぬこの事態.....その命を持ってここまで来たその者の意を、無駄にするわけではあるまいな?
国家のため、命をも捧げるのがこの国に忠誠を誓った兵の道ではないのか?」
「........はい」
威圧感溢れる言葉に、ライルは従う以外に選択肢はなくて
抱え込んだ兵の身体を、ゆっくりと床へと下ろした。